東京芸術祭2016 芸劇オータムセレクション / 日本・シンガポール・インドネシア 国際共同制作
三代目、りちゃあど
観劇前に知っておきたいシェイクスピアと『リチャード三世』
「馬をくれ、馬を!馬のかわりにわが王国をくれてやる!」 邪魔者を次々と始末し王冠を手に入れたリチャードは、家臣たちの反乱にあい、ボズワースの戦いでこう叫び息絶える。『リチャード三世』は十五世紀イギリスの薔薇戦争を題材にした歴史劇である。赤薔薇ランカスター家と白薔薇ヨーク家の覇権争いは、ヨーク家の勝利により平和を迎えていたが、王の末弟リチャードは王位を狙って画策する。彼は次兄ジョージを暗殺し、地位固めに前皇太子の未亡人アンを口説いて結婚。兄王が心労で病死すると、残る王位継承者である王子たちをロンドン塔に幽閉し暗殺する。「次期国王にはリチャードを!」という国民の声を演出した彼はしぶしぶ玉座につく。しかし喜びもつかの間、彼は家臣たちの裏切りを恐れるのだった。
『三代目、りちゃあど』のもう一人の主人公はシェイクスピア。リチャードが不自由な身体をもつという設定はシェイクスピアの創作だとか、彼にはリチャードという名の弟がいた、妻アンは悪妻だったなどの伝説が巧みに織り込まれる。さらに『べニスの
パロディ満載の作品だが、実は本家本元のシェイクスピアも既存のネタをもとに芝居を書く改作の名手だったことを知っておくと何倍もおもしろい。
道行千枝 Chie Michiyuki
福岡女学院大学人文学部言語芸術学科准教授。専門はイギリス演劇。著書に『おしゃべりシネマカフェ––映画をアカデミックに読む』(共著、ミッションプレス)、翻訳にパトリック・マーバー『ハワード・キャッツ』、『ディーラーズ・チョイス』(共著、海鳥社)ほか。
出典:福岡市文化芸術振興財団発行 「wa」vol.71より