東京芸術劇場リニューアル記念 TACT/FESTIVAL 2012
ジャンク・オペラ 『ショックヘッド・ピーター ~よいこのえほん~』
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演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんもおススメ!
作品に隠された魅力を紹介
髪は放ったらかしにしているからもじゃもじゃ(shockheaded)だし、一年も切っていないせいで、爪は伸び放題。そのせいで周囲からひんしゅくを買う子や、指しゃぶりをやめないために指を切断されてしまう子など、親の言うことを聞かない子どもたちが次々に現れては、まるで罰が当たるように残酷な運命に見舞われてゆく。19世紀にドイツで誕生し、ヨーロッパではすっかりおなじみの絵本『ショックヘッド・ピーター(邦題『もじゃもじゃペーター』)』は、かなり極端かつダークで、子どもに見せるだけではもったいない、不気味な魅力に満ちたお話だ。
'98年、英国でこの絵本を題材にしたミュージカルが誕生したが、ハンガリーを代表する演出家アシェル・タマーシュも、英国版とはまた趣を異にする、ニュー・ヴァージョンの『ショックヘッド・ピーター』を創り上げた。近年ケイト・ブランシェット出演の『ワーニャ伯父さん』の演出で高評価を得るなど、世界的な活躍でますます注目が高まっているアシェルは、ベケットやイヨネスコなど不条理劇への造詣も深く、オペラの演出も多く手がけるだけに、グロテスクなユーモアの中に潜む重層的な構造を、見世物感漂うキャバレー・スタイルによって、実に軽妙に表現している。
「バカな親はどう子どもをしつけようとするか――という点は、大人も子どもも楽しめるところですが、さらに大人は、乱暴なアプローチによって人間を本質的に変えることは可能なのか――というテーマにも思い至るでしょう。無理なルールを押しつけて人民を都合よく従わせようとする為政者の姿勢は、ハンガリーでも社会主義時代に顕著なものでしたが、社会主義に限らず、どんな政治体制においても、起こりがちなことですからね」
子どものしつけのために描かれた絵本は、こうして子どものしつけに血迷う愚かな親の姿をクローズアップする舞台となり、子どもと大人を、違うレベルでともに笑わせ戦慄もさせる、オモこわい音楽劇へと進化したのだ。
演劇ジャーナリスト・伊達 なつめ